− NO BELiEVE −





第14話  喪失された過去の記録



”ピーピーピーピーピ〜、ピピピピーピピピーピーピ〜・・・・”

ピッチのSPEEDのWHITE LOVEの呼出音に呼ばれてアタシは塾の宿題をやるのを
いったんストップし、自分の部屋の窓際にあるピッチの充電機からアタシの淡いブ
ルーのピッチを取り出した。液晶には”旗本ユリコ 070XXXXXXXXX”と映しだされて
た。
ユリ(ユリコのあだ名ね♪)はうちの家から歩いて一分しないところにあるマンシ
ョンに住んでるの。時々夜に遊ぼうってくるんだけど、今日はなんかすごい疲れた
からとても行こうとする元気はないわ。アタシとユリは親友の一歩手前って感じ。
かなり仲はいいわ。

「ハローユリ〜、どうしたの?」

なるべく明るく電話に出るのがアタシのモットー。でもみんなやってるわね。

「ねぇレイちゃん、今から遊ばない?」

来たわね。いつもならOKだけど・・・あのおばさんのおかげで疲れ過ぎちゃって
るわ・・・・

「ごめんね。今日疲れちゃった」
「そ、そうなんだ・・・・ちょっと相談事、あるんだ・・・・」
「ど、どうかしたの?」
「ちょっと・・・電話であまり、話したくないの・・・・」

いつもと様子が違う。アタシはすぐにそう理解した。

「3北に行けない?」

アタシの家とユリのマンションへの一本道の間にある小さな公園、北開南第3公園。
略して3北、とは言ってもブランコと砂場しかないようなところだけどね。

「いいよ。わかった」
「それじゃ、今から行くね。じゃね〜」

ピッ。



”どたどたどたどた”

あれ、レイカが降りて来た。どうしたんだろう。少し焦ってるみたい。

「レイカ、どうしたの?」
「ちょっと行ってくるわね!」
「ど、どこに?」
「か、関係ないでしょ!」
「ご、ごめん・・・」

レイカはちょっと目を僕の方からそらして、そしてすぐ僕に笑顔を作って言った。

「・・・ま、まぁちょっと話して来るだけよ」
「そう、気を付けてね。いってらっしゃい」
「うん!」

と全く夜道出歩くの止めないけど僕はいつも少しながらレイカが夜、外に出ていく
時は少し心配している。いや、そ、そういう意味じゃなくて・・・・その・・・た
だ、なんとなくだよ、なんとなく!夜道女の子一人出歩くのって・・・ほら・・・
危ないから・・・それだけだよ。

”ホントに〜?”
「・・・・・・」

僕はファーストの冷やかしを真っ先に無視して、テレビをまた見始めた。

− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −

アタシは3分ぐらいで北開南第3公園についた。
もうすでにユリは公園のブランコにうつむいて座ってた。
ユリはもうとっくに来て待ってたって感じがする。
なんかすごい暗い感じする・・・深刻な悩みみたいね・・・・
いつものユリじゃないわ・・・・これは絶対。

「ごめーん、待ったァ?」
「ううん。今来たところ。ごめんね、こんな夜遅く疲れてるのに」
「アンタいつもアタシと夜遊んでるじゃない。そんな事気にするんじゃないわよ。
で、なに?悩みごとって」

アタシはユリの隣のぶらんこに座った。ユリはうつむいてアタシと目を合わせよう
とはしない・・・

「・・・・・レイちゃんの好きな人って誰?」
「な、何よ急に!?」

アタシは突然のユリの質問に驚いた。今の質問でユリが恋の相談をアタシにして来
たという事にまっさきに気付いた。

「・・・・」

ユリはちょっと深刻な顔をして何も話さない。

「アンタ、誰を好きになったのよ」
「・・・わかる?アタシが・・・恋してるの・・・・」
「バレバレよ!」
「そう・・・・で・・・誰?」
「ア、アタシの好きな人なんて聞いてどうするのよ?」
「もしかすると・・・レイちゃんの好きな人とアタシの好きな人、同じかもしれな
いから・・・」

カズキ・・・アタシはカズキが好き。そう、でもそれを、その真実を知ってるのは
サキだけ。噂が本当になりたいっていつも思ってる。でもカズキは・・・・それを
望んでないみたいなの・・・・・・

今のユリにだったら教えてもいいかもしれない。今のユリはなんか暗すぎるわ。絶
対に実現不可能な夢なのかな?アタシだってこんな暗い状況になる時もあるわ。で
もそれを絶対に人には見せないわ。アタシは自分だけでなんでもやるんだから・・
・他人の慰めなんて絶対に必要ないわ!カズキ以外の誰の慰めも・・・

「ねぇ、どうなのぉ?」

ユリがちょっといらだち感じてるような口調でもう一度聞いた。

「誰だとおもう?」

アタシは少しだけ笑顔を浮かべてブランコに乗りながら下を向いているユリに目を
合わせた。するとユリは小さな声でこう言った。

「・・・狭間・・・君?」

そう・・・いつものアタシだったら真っ先にそれを否定してた。でも今は否定する
気にはなれなかった。自分自身正直に言える気がした。アタシはただ正直に自分が
想ってる事をそのままユリに伝えた。

「・・・・うん」

ただアタシはこう言った。多分アタシの顔、ちょっと赤くなってる。だってアタシ
の人生の中で二人目だもん、自分の好きな人の事話すの。ちょっとだけ顔が熱くな
ったように感じる。もし今の台詞を・・・カズキが聞いてたら・・・・どうなって
るんだろう?アタシはそんな万に一つの事を恐れ、かつ少しだけ期待して、あたり
を見回した。だけどカズキの姿はどこにもなかった。現実の世界って残酷なものね。
妄想の世界だったらなんでも出来るのに・・・ってそんな事考えてもしかたないわ・・・
この、妄想から離れた今が現実の世界だからなの・・・現実は・・・受け入れない
と駄目だわ・・・。妄想に逃げてちゃ駄目だもの・・・生きていけないから。

・ ・ ・ ・ ・

このほんの5秒ほどの沈黙が、アタシには5分のように感じた。ユリはさっきより
も暗くなってるような気がした。アタシは声をかけずにはいられなかった。

「・・・ユリも・・・カズキなの?」

ユリはただうつむいてアタシとも目を合わせようとしない。でもユリの唇は少しだ
け動き始めた

「うん・・・・」

アタシはユリにかける言葉があまり無かった。アタシとユリが、同じカズキを・・・・
ユリはでもそんな少し気まずい空気の中にいるアタシの方を見て微笑みながら、

「同じだね」

って言ってくれた。そうよ。別に、好きな人が同じだからってアタシもユリも何も
悪くないわ!アタシもまたユリの方を向いて微笑みを作りながら、

「うん。お互い、頑張ろうね」

って言ってやった。するとユリは元気が出て来たのか、わからないけど笑顔で

「うん!」

って言ってくれた。アタシはちょっとユリにひとつ質問した。

「でもさァ、どうしてあんなの好きになったの?」

ちょっと疑問。他の人はカズキをどういうふうに思ってるかっていう、ね。

「だって、狭間君、優しいし、なんかお話・・しててもすごい話しやすいし・・・・
レイちゃんは何で狭間君の事、好きになったの?」
「うーん。アタシ?なーんか。実はね、アタシとカズキって昔、同じ幼稚園に年中
まで通ってたの。幼馴染みみたいだったんだ」
「えー!そうなの?」
「でも・・・カズキ、年中の冬休みにアメリカにいっちゃったし、今のカズキはそ
のころの記憶が全くないんだって・・・・・」

そう。カズキは自分で言うにはあいつが6歳のころに中1の数学の宿題をやってた
のが一番思い出せる中じゃ昔の記憶だって言ってるけど・・・アイツ、本当は記憶
喪失らしいの。カズキはそれを認めてないけど、カズキが記憶喪失かどうかをを診
断した医者はそれを認めてる。アタシは年少のころによくカズキと一緒に遊んだ記
憶があるもの。なんかとても楽しかった記憶、今じゃとてもいい思い出。でも、ア
イツは全然覚えていないの・・・・

その記憶は私の単なる思い過しじゃない。アヤもその事は覚えてるもの。だから、
昔同じ幼稚園で良く遊んだって記憶、間違えないはずなのに。何で、何であいつは
思い出せないの?

アタシが始めてカズキの事好きになったのはその時。あいつがアメリカに行っちゃ
う日にアタシ、羽田空港にお見送りに行ったんだっけ?その時アタシは‘もう会え
ないんだ・・・’って言う悲しみでいっぱいでカズキの前で始めて泣いたんだっけ
・・・?そうだったわ・・・・何で、思い出せないの・・・・?カズキ・・・・ア
タシの初恋の人。そして今もアタシが好きで居続けている人・・・・・

「・・・・」
「・・・・」
「ねぇ、レイちゃん」
「なに?」
「狭間君の昔のビデオアルバムみたいのってないの?」

!!

今まで考えた事・・・無かった。カズキ自身持ってなくても、もしかするとアタシ
の幼稚園の時のビデオにカズキがでてるかもしれない!

「カズキのはないかもしれないけど、もしかするとアタシのビデオにカズキがでて
るかもしれない!!」
「一応狭間君にあるかどうか聞いてみたら?」
「そうね!聞いてみるわ!」
「ねぇ、もし狭間君がアルバム持ってたら明日私とレイちゃんと狭間君でアルバム
見せあわない?」
「えー・・・恥ずかしくない?それって」
「いいじゃない。それに私なんて自分のビデオアルバム見た事もないのよ」
「それはアタシも同じよ」
「いいじゃない!明日やろうよレイちゃん!もしあったらね!」
「なかったら?」
「その場合は二人で!レイちゃんも自分の見た事無いんだったら見るきっかけみた
いになれるじゃん。だってそういうのって滅多に見ないらしいから」
「何でそんなにアルバム見せあいしたいのぉ?」

アタシの素朴な疑問。別にアタシはカズキのアルバムを見てみたかったし、自分自
身のアルバムに何が写ってるかもちょっと疑問になったし、面白そうだから別にO
K出していいんだけど、一応ね。

「なんか、見たいのよ。なんとなく。私も自分のアルバム見た事無いから、見るき
っかけみたいのなかなか掴めなくて、一緒に見るとなんか面白そうだし、お互いも
っとよく知る事出来るだろうし」
「そうね。なんか面白そうだわ。カズキに聞いてみるね」
「じゃ、明日学校持って来てね!」
「うんわかった。それじゃまたね」
「バイバイ」

こうしてアタシ達は3北を去った。



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