− NO BELiEVE −




第26話  オトナと自覚



僕とレイカは家に戻るなり僕の部屋に入った。
リビングにある留守電にはアヤちゃんから

「今日は帰ってこないから、適当に食べててねー♪ただしおいしいものは
アタシにも残しとく事!それじゃねーん」

というメッセージが入っていた。今日はその方がよかったのかもしれない。
なるべく大人からはほっといて欲しかった。そう思ってたからかもしれない。

僕の部屋に入るなりレイカはベッドに座り、床に視線を向けていた。
やはり精神的にも肉体的にも疲労が溜まってるんだろう・・・でも寝る事など
できない。

「レイカ、大丈夫?」

床に座って、僕がそう答える。

「うん・・・なんとか・・・」

気が入ってない返事。このままほっとくと倒れてしまいそうな感じだ。

「・・・なんか、食べる?」

僕はまったく持って食欲などわかなかったのだが、一応聞いてみる。

「・・・アンタねぇ、こんな時に食欲なんかわくわけないでしょ」
「ご、ごめん」
「でも、なんか飲みたい・・・・」
「冷蔵庫にコーラあるから持ってこようか?」
「うん」

下に降りて一旦風呂を沸かす。そしてから冷蔵庫を開け、2Lのコーラとコップを
2つ、あと一応菓子パンを2、3個持つ。僕は食べ物は見ただけで吐きそうになる
ほどだったが、もしかするとレイカが食べたくなるかもしれないと思ったからだ・・・・

「はい、おまちどうさま」
「ありがとう・・・で、このチーズ蒸しパンとチョコパンは当然アンタのでしょ?」

違うってば。でも逆らわず、かつ僕のじゃないという事を主張するように説明する。

「いや、お互いもしなにか食べたくなったら・・・・さ」
「ふーん・・・」
「・・・はい、コーラ」

そのあと無言でレイカは手渡されたコーラを飲み干す。
そしてつげといわんばかりに僕の前に差し出す。

「・・・はいはい」

そういって僕はまたつぐ。
そしてそれをまたレイカは飲み干す。そして口を開いた。

「ねぇ・・・」
「ん?」
「なんでオトナって・・・ああもみんな自分勝手なのかな・・・」
「・・・・・」
「おかしいわよ・・・なんでオトナが偉いってこの社会、決め付けてるわけ?」
「・・・・・」
「オトナって子供の人権なんかないって思ってるに決まってるわ」
「・・・・」
「ねぇ・・・そう思わない?」
「・・・・でも、オトナみんながみんなそうってわけじゃないと思うよ・・・」
「オトナなんてみんなそうよ。今日のなんか典型的じゃない」
「でも、そうしたらアヤちゃんとかユキちゃんもそうって事だよ」
「アタシはアヤはウザイ」
「・・・・」
「・・・・忘れるもんか・・・」
「・・・・」

レイカはいっきにコーラを飲み干し、僕はまた差し出したコップにコーラを注いだ。

「それにユキさんなんて全然オトナって自覚してないじゃない」
「・・・・・」
「今日もあの河井って先生、あの人オトナだと思った?」
「うーん・・・違うね」

僕はうっすらと苦笑いを浮かべながら言った。

「あいつはオトナって自覚だけじゃなくて先生って自覚すらしてないわ」
「確かに・・・・」
「私が今言ってるのは『自分がオトナだ』って思ってるキチガイよ」
「・・・・・・」
「自分勝手で、利己主義で、悲観主義で、型にはまってないと気が済まないような
の、あんなのより下なんて絶対おかしいわよ。アタシたちの言う事何もきいてくれ
ないでさ」
「・・・うん・・・本当にウザイよね・・・」
「もうあーいうの、本当に全部追い出しちゃおうよ。あんなウザイ生き物さ」
「うん、消したいよね・・・」
「まぁそういうこと。お風呂わいてる?」
「うん、沸いてるよ」
「アタシ、入ってくるね。あ、そうそう、今日ここで寝るから布団ひいといて」

僕は少しだけ戸惑いながらもOKした。
するとレイカは少しだけ笑顔をみせて、

「アリガトッ!」

と言って部屋から出ていった。
僕はベッドに横になり、手元にあったリモコンでステレオをつけ、適当に
CDチェンジャーから番号を選びプレイを押した。かかったCDはなぜか
globeの4シングルをまとめたCDRだった。

Wanna Be A Dreammaker が4つのスピーカーから少しうるさく鳴り響く中、
僕は今日あった事を少し整理しようとした・・・・

”ハッハー、よくアンタもやるわねー”
”ファースト?”
”アンタなに我慢してんのよ”
”我慢?”
”普通だったらとっくに別の人格に変わってるくせに”
”・・・別にいいだろ”
”まぁ、少しは逃げる事から進歩したって事かしら?”
”そうかんがえられたら、いいんだけど・・・”
”少し人格変わったら??”
”・・・いいや。大丈夫だから”
”アンタ・・・これ以上人格を増やさないでよ”
”わかってるよ、それくらい・・・”
”あの暴力ババアのせいよねー、全部!”
”やめてよファースト!思い出させないでよ・・・”
”別にアンタが受けたわけじゃないじゃない、あれは”
”でも、僕が受けたような気がするんだ・・止めて!止めてよ!!”
”わかったわよっ!でもオトナが信じられないのはわかったでしょ?”
”・・・・・”
”なんでアンタそれにユキを信じてるわけ?”
”ユキちゃん・・・・・好きだから”
”あいつだって所詮オトナなのよ?”
”でも・・・違う”
”なにが違うって言うのよ。あいつだって所詮オトナだし、ホテル通いでも
彼氏としてるに決まってるじゃないの!”
”・・・・・やめてよ・・・ユキちゃんをわるく言うな・・・”
”なによ!それが現実じゃないの!ただアンタその現実から逃げてるだけ!
違うの!??”
”だって・・・そんな証拠、あるのかよ”
”あらー、忘れたのぉ?前ユキにあった時、なんかすっごいきれいな指輪してた
じゃない。でもあんたは見て見ぬふりして、その記憶を他の誰かに押し付けた・・・
それがアタシ、ちがくて?”
”・・・・・ごめん・・・ごめんファースト・・・”
”まー、アタシはあんなおばさん手前なんて興味ないからいいんだけどねー”
”・・・・本当にごめん・・・・”
”本当に謝ってる、反省してるとおもうならその逃避を止めなさいよメクラ!”
”・・・・・”
”現実本当にアンタ見えないのね・・・レイカに助けてもらいなー。ババイ!”
”ちょ、ちょ・・・”


現実へと押し戻され、ただただ天井を見つめるだけの姿勢となった。
スピーカーからはSa.Yo.Na.Ra.がちょうどフェイドアウトしていく所だった。

「サヨナラ・・・・か・・・・」

そう僕はつぶやいて楽な姿勢をとり、目を瞑った・・・・
目の奥が熱くなっていくのを押さえこむようにして・・・・




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