− NO BELiEVE −




第21話  最低のレスキュー



「・・・・いねーな」
「ど、どういう事?」
「つまり、このマンホールにはいねーって事だ」

一気に空気が重くなる。
ぬか喜びしてしまった僕達に一気に落胆が押し寄せる。

「じゃあ、あのマンホールしかねーな」
「・・・・そう、みたいだね・・・・」

がちゃ、

僕はマンホールのふたを閉めながら言った。マサトとマサヒロとヒロシと一緒にレ
イカの足元にあるマンホールに向かった。僕達を応援してくれてた見物してた人達
は、「なにやってんだ?」てな感じの目で僕達を見ている。確かにあのマンホール
の中には犬はいなかった。でも絶対に犬はこの辺に居るのだ。声が聞こえるから間
違い無い。だとしたらもう一つのマンホールの下しかないのだ。

「おい、犬いなかったじゃねーか!」

誰か一人が大きめな声で僕達に言った。

「でも聞こえんだろ!?犬の声!」

その言葉をマサトがいった瞬間、みんなは静かになり耳を澄ました。
そのとき僕も耳を澄ましてみる。

「・・・わん、わん・・・・」

確かに聞こえる。でも確実にさっきよりも弱まってる声だった。
そしてから少々経ち、再びざわめきが聞こえるようになる。

「なあ、さっきより弱まってない?」
「ああ・・・よし、ついた。ここのマンホールだ」

もう一つのマンホールに到着。
レイカやヒロちゃん、旗本が僕達を見つめる。

「いなかったね・・・・」

レイカが口を開く。かなり残念だというのが容易にわかるような声だった。

「大丈夫。このマンホールにきっといるよ」
「そうそう。安心しろ、朝奈!」

そう僕とマサトはレイカにいい、マンホールをつかんだ。
それにつられてマサヒロや岸本もマンホールをつかむ。
僕達を応援してくれてる人達がまた僕達の方にいっせいに注目している。

「おい。いくぞ!」
「あ、ああ・・・っせーの、せ!」

ぐい!!

「ふんぬーーーーー!!!!!!」


「だ、だめだ・・・・びくともしない・・・」
「変だな・・・・このマンホール、錆びてんじゃねーの?」
「みてーだな・・・・」
「うん・・・・」

俺達は本気でマンホールを引っ張ったがどうしても開かなかった。
僕達はちょっと座るようにしてちょっと休憩をとった。

「今何時?」
「もう34分。こうなったらもうヤケね!なにがなんでも助けなきゃ!」
「そうだね!なにがなんでも助けよう!」
「はぁ・・・・」

マサトがちょっとやれやれと言った様子で首を振っている。

今まで見てただけだった人達も僕達が休んでるときにあいだに参加して、
僕達と同じ様な事をして開けようとする。だけど駄目だった。誰がやっても
マンホールはびくともしなかった・・・・

「・・・これ、どうしても開かないの!?」

レイカが心配そうに僕達に聞く。

「うん・・・なんか、壊れてるみたい・・・」
「・・・だな・・・」
「そう・・・・どうしようか・・・・」
「警察に、聞いてみれば〜?」

ヒロちゃんが提案する。

「あ、そうよカズキ!こういう時のために警察は存在してるのよ!」

レイカはそういってピッチを取り出し、110番に電話しようとする。

「お、おい・・・マジかよ・・・」

マサトが少し脅えた声で言う。マサトは実は、警察が大の苦手なのだ。
でももう遅かった。レイカはすでに最後の0のボタンを押してしまったのだ。

プルルルル・・・・プルルルル・・・・・

今まで見物してた人達は今は自分達で開けようと精一杯になって居るのがほとんど
で、レイカが警察に電話して聞いてみようとしてるのに気付いてるのはほんの数人
しかいなかった。

「・・・あ、もしもし。110番ですか?」

その言葉を聞いた瞬間、マサトはいきなり立ち上がり自分のバイクに乗って逃げる
ようにここを去ってしまった!

「マサト!?」
「ちょ、ちょっと羽柄野!!アンタどこ行くのよ!!?」

例え電話中でもこれにはレイカも少し驚き、つい声をあげる。
でも声をあげたときにはもう遅く、マサトは一瞬にして姿を消してしまった。

「もしもし、どうしたんですか?もしもしぃ」
「あ、すいません。あ、あの・・・」

レイカは少し不安定な口調になりながら警察に事情を説明しようとする。
僕はなぜマサトがここまでして警察を恐れる理由がわからなかった。
僕は思わずマサヒロに聞いてみる。

「マサト・・・どこいったんだ?」
「あ?お前、わかんないの?」

「ちょっとお前、鈍いんじゃないの?」といった表情でマサヒロは僕を見る。

「う、うん・・・・わかんないよ」
「だ〜か〜らぁ・・・・」

マサヒロは僕に「耳をかせ」といったように手招きをする。
僕は素直にマサヒロの方に耳を傾ける。

「だからさぁ、あのバイク盗バイだろぉ」
「あ、そういえば・・・」
「そんでもって今、朝奈がマッポにここにきてもらおうとしてんだろ?そのマッポ
様様がそのバイクをチェックすれば一発でバスト!ってなわけだ」
「なるほど・・・じゃあ、すぐ戻ってくるかなぁ」
「さあ〜・・・」

僕にはマサトはそう簡単に人を裏切る人間ではないというイメージがある。
多分大丈夫だろう・・・そう思いながらレイカの方を自分の意識をむけた。
すると・・・

「アンタなんて事言うのよ!そんなの関係無いじゃないのよ!」

な、なんだなんだ!?なんかひどく怒った口調になってる。
思わず僕は「どうしたの!?」って聞きそうになったがもう少し様子を
見て、自分でどうなったか予測する事にした。今なぜかレイカには話し
掛けられそうな状況ではなかった。下手に聞くと僕の方に矛の先がむけられて
しまうのがわかってたからだ。それ以前に電話中というのもあったが・・・

「それが警察の言う言葉!!?アンタ自分でなに言ってんのか解ってんの?!」
「助けてあげたいとおもうなら助けに来なさいよ!!なにが(人じゃありませんの
で・・・)よ!!人も犬も同じ生き物じゃないの!!」
「なに言ってんのよ!!?アンタキチガイ!!?」
「警官侮辱罪!?業務執行妨害!?そんなんでアタシが脅されるとでも思ってんの!!??」

ま、まずい・・・(汗)。大体状況は把握出来た、多分こうなんだろう。
多分警察は犬だから、という理由で現場にはいけないという事なのだろう。
でもこのままだとレイカが捕まってしまう・・・。僕は立ち上がり、レイカに
向かって手をさし出した。もう頭に血が昇ってるレイカには無理だと思ったからだ。

「ちょっと待ってなさいよ!」

そう言ってレイカはピッチの「保留」のボタンを押す。

「アンタ、変わる?」

少し怒ってる口調ながらもレイカは僕に聞く。

「うん・・・」
「アンタ、状況わかってんの!?」
「ま、まあ・・・大体」
「つまり、このバカは人命救助じゃないから助けにはいけないって言ってんのよ」
「大体わかるよそれは」
「それでアタシ達には無理!って言ったら諦めろとか言い出すのよ・・・あとは頼
むわよカズキ!!」

そう言ってレイカは僕にピッチを差し出す。
僕はおもむろに保留のボタンを押す。

「もしもしお電話変わりました」
「もしもし、ですからですね。私達はそう言った人命にかかわらない事には手出し
は出来ないのですよ」
「どうしてですか?」
「こういったものはですね、交番に言ってもらうかなんかしてもらわないとこちら
としても困るんですよ・・・」
「でもこの辺には交番なんて存在しませんよ」
「は、はい・・・でも何とかあなた達で頑張っていってもらえませんでしょうか?」

なにをむちゃくちゃな事言ってんだ・・・・?
まるで「こんな小さな事で俺達をわずらわすな!」といってるみたいな・・・

「なんでそんなむちゃくちゃな事言うんですかね。まるで犬なんかほっとけって
いう感じに読み取れますね。本当に警察としてそれでいいんですか?
あなたたちは」
「は、はぁ・・・我々としても助けてあげたいのは山々なんですけどねぇ」
「なら助けに来てくださいよ」
「ですからそういうのは自分でやっていただくかなんかしてもらわないと・・・」
「どうしろというんですかこの状況を?」
「もうほっておくしかないですね」
「な、な、な・・・・それが人間の言う事なんですか!?」
「我々は勝手な行動は取れない規定がありまして・・・・」
「・・・・血も涙もないんですね・・・・。もういいです。自分達で何とかします。
そのかわり何が起きても知りませんよ」
「近くの住民に苦情が出ない程度にしてくださいね。苦情が出ると我々も動かなく
てはいけない状況となってしまいますので・・・」

プチ!僕の中で何かが切れる音がした。

「っざけんじゃねーぞ!!!犬の命が消えるよりも住民の苦情の方が大きいって
言うんか!?」
「我々としては助けてあげたいのですが・・・・」
「ここの責任者に変われ!!話がしたい!!」
「私はあなたに変わってもらう義務はありません」
「っざけんな!いいから変われってんだよ!!」
「業務の妨害ですので、電話を切らさせていただきます」
「おい!!ざけて・・・!!!」

ガチャ、プー、プー、プー、プー・・・・・

僕は、身体を暑くさせながらボーッとピンクのピッチを信じられないといった表情
でじっとピッチをにらんでた。レイカ達はただじっと僕の方を向いて茫然としてた。

「カズキ・・・・」

この沈黙の中で第一声を発したのはレイカだった。
それにつられて僕は口を少しだけ動かす。

「最低だな・・・・警察って・・・・」

僕はただ一言、そうつぶやいた。



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